競合がいきなりおそいかかってきた! ある学生起業家の試練

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大学生のうちにスタートアップを立ち上げる学生起業家がいる。まだ社会に出る前から事業を育て上げるにはさまざまな努力と工夫が必要だろう。ドリコム主催のイベント「ベンチャーという働き方、起業という働き方」で、いま注目されている学生起業家と新卒社長が登壇し、創業初期の経験を語り合った。

登壇者は出前代行アプリを運営するdelyのCEO・堀江裕介さん、漫画サービスを展開するStone FreeのCEO・石黒燦さん、音楽ストリーミングアプリ「DropMusic」を提供するIgnom代表取締役・吉田優華子さんの3人だ。

特に起業を志す学生や、若手の起業家は必見の内容だろう。例えば、なぜ彼らは若くして創業という道を選んだのだろうかーー。

返ってきたのはこんな答えだ。

「とりあえずやるか」で創業を決めた

delyの堀江さんは特にビジョンがあったわけではなく、「とりあえずやるか、みたいな感じで始めちゃった」と話す。現在は比較的資金調達がしやすい状況にあることから、「やるなら良いタイミング」と判断し、踏み出したそうだ。今年の4月にサービスを立ち上げ、都内でケータリングを提供。すでに合計4社から資金を入れて運営している。

出前の代行というサービスを選択した理由については、「まず自分ができることは何か。僕は頭も良くないし、プログラミングができるわけではなかった。営業くらいしかやることがないなと。営業が上手く活用できるモデルというと、それは飲食店ではないか。自分にできることをやろうと思った結果ですね」と振り返る。

Stone Freeの石黒さんはなんと中学・高校時代から貿易業者としてビジネスを経験していた。ただし、徐々に飽きていったのだという。

「海外から安く仕入れて、日本に卸していろいろなところで売るっていう繰り返しで、ただ口座のお金が増えていくだけで面白みがない。どうせやるんだったら大きなことをやりたいと考えていて、だったらもうベンチャーやるしかないなと、創業しました」。

まだ20歳で大学1年生だが、「早いタイミングで挑戦した方が、時間をかけていろいろなことを吸収していける」と考えたそうだ。現在はオリジナル漫画を世界に向けて無料配信するサービスを開発している最中だ。

大学時代、超ダサい会社を起業して潰した

Ignom代表取締役・吉田優華子さん

Ignom代表取締役・吉田優華子さん

吉田さんは前の2人とは異なり、ドリコムに新卒で入社した後に子会社のIgnom代表に就任した。やはり起業したいという気持ちはかなり前、なんと小学校6年生の時から持っていたという。

父親から「女性なら自立してかっこよく生きろよ」と言われ続け、さらに2人いる兄にも負けたくないと思ってたことから、自然と起業を考えるようになった。大学時代には一度、「超ダサい会社を起業して潰した経験があった」のだそうだ。

2013年の新卒でドリコムに入社し、現在は社会人2年目。1年目にソーシャルゲームのディレクターとなり、2014年4月からIgnomの代表に就任した。代表に選ばれたときは、即答で「はい、やります」と応じたが、あまりに早い回答だったため「もうちょっと考えてきていいよ」と止められたくらいだという。DropMusicはすでに500万ダウンロードを突破している。

「楽しさ1、苦しさ9」会社員と起業家の違い

いちスタッフとして働くことと、起業するのとでは、実際にどんなところが異なるのだろうか。堀江さんは企業のインターン時代のことを思い出して、「とりあえず認められることは簡単だった。人の10倍くらい働く時間を増やして頑張れば、認められる」と言い切った。

しかし起業は違ったという。「いくら頑張っても、あれ? これ無理じゃねえか?みたいなことが無限にあった。僕らの競合はすべて上場してる会社なので、資本力の差は単純に努力だけじゃ埋められない。インターンの時はまだ社会の仕組みみたいなのがまだ見えてなかったと思います」と話した。

さらに「楽しさと大変さを比率で表すならば、僕の場合は楽しさ1、苦しさ9くらいです」と続ける。「正直なところほぼ辛いです。ほぼ辛いけど、それは顔に出してはいけないので、なるべく出さないように頑張る。創業前は2ヶ月開発が遅れて、飲食店に2ヶ月間ずっと謝るっていうのを1人でやっていました。あの時は本当に死ぬほど苦しかったですし、やっぱり9割苦しいですね」と笑った。

良い意味で息つく暇がない

Stone FreeのCEO・石黒燦さん

Stone FreeのCEO・石黒燦さん

逆に起業したからこその楽しさという面はどうか。石黒さんは漫画・アニメのサービスを作っているため、そういったコンテンツが生まれる場に立ち会えることが一番の面白さだという。

「例えばいままでは中国に漫画家がいるって全然知らなかったですが、本当にすごい人が発掘できた。なおかつ彼らとパートナーシップを結んで、海外に配信していけるような場を作れるというのは、自分にとってはかなり楽しい」と活き活きと語った。

吉田さんは「良い意味で一息つく暇がない」。まずスピード感の違いに圧倒されたという。「私が社長になったのが4月で、早速5月には日本レコード協会から呼び出された。日本の音楽業界をまったく知らないうちに代表になったので、まずは音楽業界の仕組みを学ぶところから始まったんです。でも、これから新しいデジタルミュージックを広げていくために、日々いろいろな方に会ってお話をさせていただいてるというのは、大変でもあり楽しい」と話す。

10代女子に会うため渋谷に入り浸る

吉田さんは業界関係者だけでなく、DropMusicユーザーの中心世代である10代とも積極的に交流するようにしているそうだ。「大切にしてることはユーザー目線です。私は今24歳。10代の今どきの女の子と感覚そんな変わってないだろうなって思ってたんですけど、実際に週末は渋谷に入り浸って10代の女の子と話したりしてると、全然アプリに対する価値観とかが違ってました。私はもうオバサンなんだなって自覚しました」と話す。

さらになるべくユーザー世代の生の声を聞くために、電車の中で10代女子の後ろにぴったりくっついてどんなアプリを使っているかチェックしたり、クラブで知り合った10代の女の子とLINEを交換して、後日に直接会って話を聞いたりしているそうだ。

緑のメッセージアプリの会社が類似サービスを出してきた

delyのCEO・堀江裕介さん

delyのCEO・堀江裕介さん

堀江さんはとても興味深いエピソードを披露してくれた。堀江さんがあるイベントでdelyのプレゼンをしたところ、「緑のメッセージアプリの会社」の社長に高く評価された。その結果、delyの名前も売れ始めたのだが、なんとその3ヶ月後にそのメッセージアプリの会社が類似サービスを発表したのだそうだ。

堀江さん、そのときの心境は「うわー!まじかよ」という感じだったそうだ。しかし「実際ぶん殴りあっちゃいけない相手っていうのはいて、正面からベンチャーがぶつかっても勝てない」と振り返る。

おそらくそのプレゼンイベントはSKYLAND VENTURESというベンチャーキャピタルが主催した「STARTUP SCHOOL」だろう。緑のメッセージアプリの会社は言うまでもなくLINE株式会社だ。STARTUP SCHOOLで審査員を務めたLINEの森川亮社長は自身のブログの中ではっきりと「私はこの中で特にdelyというケータリングのサービスをベストプレゼンテーション賞に選ばせていただきました」「代表の堀江さんはまだ慶応大学の学生ということで楽しみですね」とまで記している。

そしてその4ヶ月後にLINEは事業戦略発表イベント「LINE CONFERENCE TOKYO 2014」を開催し、フードデリバリーサービス「LINE WOW」を発表した。明らかにdelyと競合する分野だ。

堀江さんはこう語る。「本当に自分たちが強いところと弱いところをしっかり把握して、勝てる市場をしっかり探していかないといけない。その判断を間違わないように。緑の会社にもなるべく喧嘩を売らないように、どうやったら一気に抜いていけるか。そういうことを考えつつ戦ってる感じですね」。非常に冷静である。

創業期の社長の役割は「買い出し」?

今まさに0から1を立ち上げようとしているスタートアップにおいて、求められる社長の役割とはどういったものだろうか。

石黒さんは「基本的にどんなことでもやらなきゃいけない」と話した。仲間が最もパフォーマンスを発揮しやすいように、考えられることはすべて自分の仕事になるのだという。吉田さんは「皆の足並みを揃えるところを意識しました」と振り返った。熱意はあっても方向性が揃ってなかったため、まず企業理念を明文化し、それを繰り返し言い聞かせたそうだ。最初の1、2ヶ月ってほとんどそれしかしてないくらいだという。

堀江さんはかなり具体的で、「最初の頃、僕の役割はモスバーガーと、あとコンビニで何か買ってくることだった」と言う。「皆コードを書いてたので、僕はやることがなかったんです。だからモスバーガーで買ってきてました。で、皆が喜んでくれれば良いかなって。だから僕はCMOですね、チーフ・モスバーガー・オフィサー」。

冬になって、いまはおでんを買うことが多いそうだ。「COOになりがちです。僕はあまり頭良くないので、あとはトイレ掃除やらせていただいてます」と笑った。


モデルは「Google最初の21人」 スマニューに見る、エンジニア集団の作り方

成長している企業はどんな戦略で採用に取り組んでいるのか――。12月に京都で開催された「IVS 2014 Fall」で、「成長企業の採用力」というテーマのパネルディスカッションが行われました。登壇したスマートニュース代表取締役会長共同CEOの鈴木健さんは、「レアルマドリード」と「Google」をモデルにした採用を実践していると言います。以下、鈴木さんの主な発言をまとめました。

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メディアではなくエンジニアの会社

スマートニュースは2012年6月、僕と共同創業者の浜本(階生)の2人で始めた会社です。ネット上にあふれる膨大な情報の中から、本当に良質なコンテンツだけをアルゴリズムの力を使って抽出して、たくさんの人に届けることをミッションにしています。

どんな考え方でサービスを運営しているか。1つ言えるのは、「コンテンツを愛しています」ということです。僕自身も、『なめらかな社会とその敵』という本を書いていますが、メンバーの中には、コンテンツを作ってきた人が多いんですね。

もう1人、コンテンツを愛する人の例を出すと、藤村(厚夫)さん。元々はアスキーで雑誌や書籍の編集をしていて、アットマーク・アイティを創業して、アイティメディアの会長として上場して、その後にスマートニュースに参加してもらいました。紙、ウェブ、スマホアプリの世界を全部知っているんですね。昔は文芸批評までやっていて本当にすごい。コンテンツを愛するメンバーが集まっている感じです。

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オフィスは世界3箇所にあります。ニューヨークに2人、それからサンフランシスコに4人、東京に28人います。特筆すべきなのは、バイズプレジデント(VP)コンテンツ担当として入っていただいたリッチ(・ジャロスロフスキー)さん。アメリカにおける藤村さんに相当する人です。藤村さんはスマートニュースでメディアとの関係性を全部構築してくれたんですが、我々がアメリカに進出する時には「アメリカ版の藤村さんが必要だよね」と連呼してました。

リッチさんはもともと、1994年にウォール・ストリート・ジャーナルオンラインが立ち上がった時のマネージングエディターだった人なんですね。ブルームバーグのエディターもやっていて、著名なガジェットコラムニストでもあります。こういう話をすると「スマートニュースってメディアの会社なの?」という印象を持たれると思うんですけども、実際にはエンジニアの会社です。社員の半分以上はエンジニアなんです。

ユーザーを熱狂させるのはエンジニアの仕事

僕が組織作りで意識しているモデルの1つに、レアルマドリードがあります。

どういうことかと言うと、スマートニュースは社会のためにニュースを届けたいと考えてるんですね。ユーザーにニュースを届けるためには、プロダクトが重要です。プロダクト中心主義というのはユーザー中心主義とほぼ等しいわけですけども、実際にプロダクトを作るのはエンジニア。僕らがレアルマドリードと言うのは、実際にサッカーをする人がエンジニアであるわけです。

例えば、メッシとかクリスティアーノ・ロナウドは、最高のプレーをすることを通じてスタジアムを歓喜させるわけですよね。僕達も同じように、エンジニアが最高のプロダクトを作ることを通してでしか、ユーザーを熱狂させられないという信念でやってます。「エンジニアはアスリートである」という考え方のもと、採用ではエンジニアに一番注力しています。

サッカーチームが最高のパフォーマンスを出すには、例えば最高の芝生が必要になります。グリーンキーパーがいて、はじめてメッシは最高のドリブルができる。だからこそ、オフィスの環境を整えることは大事。コーポレート部門の人達も、エンジニアの環境を最高に良くすることをミッションとしています。僕らが一流のチームを作るためには、日本代表から「世界選抜」に選ばれるレベルのエンジニアを集める。エンジニア以外にも、世界選抜レベルのメンバーを集めていこうと思っています。

Google最初の21人の半数以上はエンジニアだった

もう1つ、組織作りで意識しているのがGoogleです。世界で最高レベルのエンジニアが集まる企業というと、Googleをモデルにせざるを得ないわけですね。

Business Insiderの記事で、「Googleに入社した最初の21人が今現在、何をしているか」っていうエントリーがあったんですよ。最初の社員はラリー・ペイジやセルゲイ・ブリンがいて、21番目がマリッサ・メイヤーなんですけども。

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その記事を読んで気になったのが、最初の21人は入社前に何をやっていたということで、自分でググって調べてみたんです。(以前のキャリアを調べると)大学院の准教授とか博士号とかがゴロゴロしてるんですね。そういうのを見て、ある法則に気がついたんです。

それは何なのかと言うと、Googleのエンジニアの人数は、全体の社員の50%を割ったことがないんです。僕は勝手に「50%ルール」と名づけて、同じようにやりました。スマートニュースの最初の21人も、50%を下回っていません。(50%ルールは)自分で発見したつもりだったんですけど、実はエリック・シュミットが書いた『How Google Works』にその話が書いてあって。Googleは意識的にやってたわけですね。

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A級はA級を連れてくる、B級はC級を連れてくる

実際にどういった採用基準でやっているかっていうと、いわゆる、Aクラスの人材だけを採用することにしています。Aクラスの人はAクラスの人を連れてくる。Bクラスの人はCクラスの人を連れてくるという格言があるんですけども、迷わずにAクラスと思う人だけを採用すると。だから、判断に迷ったら採用しません。

それから、紹介ベースの採用が非常に多いのも特徴です。全体の8割は社員紹介で、社員全員が採用担当者のような感じ。さらに言うと、経営者の30%の時間は採用に使うようにしています。そしてもちろん、今でも「50%ルール」を守っています。

特にエンジニアの採用は、エージェント経由が少なくて。エンジニア同士のネットワークが重要になるんですね。なので、やっぱりエンジニア一人ひとりが採用担当者になった意識を高めてもらうようにしています。例えば、いろんな学会とか研究会で発表してもらって、段々と認知を上げてもらうとか。

あとは月に1回パーティーをやっています。そこで軽くエンジニアの人たちを集めて、仲良くなってもらうような感じでやってます。

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変なプログラムを書く人がいないアスリート的な環境

エンジニアの人たちって基本的に、あんまりお金とか報酬ではなくて、やっぱり仕事をしたいんですよ。優秀なエンジニアほど、良い仕事をしたいと思ってるんですよね。

良い仕事をするためには、環境が大事だと思うんです。環境というのは2つあって、1つは、周りに優秀なエンジニアがたくさんいること。そうすると、変なプログラムを書く人がいないから、自分が生産的にやれるわけです。わからないことがあったら聞けて、切磋琢磨できる。まさにアスリート的な環境ですよね。自分たちが競り合ってレベルアップして、もっと上を目指すみたいな。

良い仕事を環境でもう1つ必要なのはオフィスなんですよね。やっぱり働く環境ってすごい大事。うちは靴脱スペースがあるんですよ。無印(良品)で売ってる、「人をダメにするソファ」みたいなのあるじゃないですか。あれが靴脱スペースに大量に置いてあって、そこで寝そべったり、腹ばいになったりとか。「何でこんな格好でコーディングできるんだ?」っていうクリエイティブな格好でみんな仕事してるんですよ。そのスペースが大人気で、もう本当にあふれかえっちゃうくらいなんですけど。そういう、働く姿勢。姿勢っていうのは別に精神的な態度じゃなくて、本当に物理的な姿勢が、採用の役に立ってると感じています。


面倒なパスワードや指紋認証がいらなくなる!? 心臓の鼓動で生体認証する「Nymi」とは?

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私たちが、肌身離さず持ち歩き、毎日幾度となく触るスマートフォン。毎日、何時間とにらめっこしているコンピューター。これでもか、というほど使っているにも関わらず、私たちは、自分が持ち主であることを証明するために度重なるパスワード入力や指紋認証を余儀なくされています。そんなの馬鹿げている、と立ち上がったのが、2011年に設立されたカナダの企業 Bionym社です。

CEOのKarl Martin(カール・マーティン)さんが率いる40名のチームが開発するのは、リストバンド形状のウェアラブル「Nymi(ニーミ)」です。Nymiは、人それぞれに固有だという「心臓の鼓動」を使うことで、生体認証してくれる画期的なウェアラブルです。2014年内には初期出荷を予定するNymiについて、マーティンさんにお話を伺いました。

 

面倒なパスワード入力や指紋認証を排除

-ウェアラブルプロダクトNymiの概要を教えてください。

Nymiは、心臓の鼓動を用いて生体認証を行うリストバンドです。人間の指紋が人それぞれ固有のものであるように、心拍のリズムも同じく個々人で固有です。この心拍のリズムを活用することで、指紋認証や顔認証のように個人を特定することができるのです。Nymiのリストバンドをつけているだけで、デバイスの認証解除から、家やオフィスの扉のカギなど、物理的な空間のロック解除もできます。

 

-Nymiと、その他のテクノロジーとの違いはどこでしょうか?

Nymiの特徴は、「持続性」のコンセプトにあります。Nymiの初回利用時に設定をして手首につければ、それをつけ続けている限り、常に認証された状態です。つまり、Nymiをつけている間は、パスワード入力などを一切する必要がないのです。また、あなたがNymiを外して、それを誰かが拾ったとしても、手首から外すとユーザー認証が解除されるため、登録していない他人がつけても認証される心配はありません。

 

-Nymiをつけていることで、自分のことを伝えたくない先に、自分の情報が渡ってしまうようなことはないのですか?

プライバシーは、非常に重要な問題です。もし、Nymiを正しく開発できないと、プライバシーを大きく侵害してしまう可能性があります。Nymiが重要視するのは、「ユーザーにコントロールを与えること」です。スマートフォンや決済システムなど、Nymiに連携するすべてのデバイスは、あなたがオプトインして設定するものです。もちろん、不要になれば設定を解除できます。また、Nymiと連携させているアプリケーション同士がつながって、個人を特定する心配もありません。

 

-例えば、病気だったり、走った直後などでも、Nymiは問題なく動作するのでしょうか?

はい、さまざまな心拍のリズムを読み取ることができるため、問題ありません。ここは勘違いされることが多いのですが、そもそもNymiは四六時中、持ち主の心電図を測っているわけではないのです。心電図を測るのは、あくまでNymiを着用した初回時のみです。その後は、それをつけている限り、あなたを認証し続けるという仕組みです。ですから、運動をしてどれだけ心臓が早く打っていようと関係なく機能します。

 

生体認証の根本的な課題解決がしたい

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-Nymiは、開発当初、トロント大学の研究の一環として始まったと聞きました。マーティンさんも、その研究に携わっていたのですか?

そうですね。今はもうBionymを離れてしまった、わが社の共同ファウンダーと共に、私はバイオメトリクス(生体認証)の研究をしていました。Nymiの心電図(ECG)認証の技術は、この研究から生まれたものです。当時はまだ単なるアルゴリズムでしたが、その技術を買って、Bionymを立ち上げたのが3年半前です。最初は、技術のライセンス販売を検討していましたが、立ち上げから2年ほどして、ウェアラブルという形状にして製品化することを決めました。

 

-Nymiをウェアラブルにしようというアイデアは、どうやって生まれたのですか?

私たちは、この技術をうまく活用する方法を模索していました。例えば、ビデオゲームのコントローラーに搭載してみようとか。でも、結局、どれも「人が認証される」という行為を根本的に変えるものではなく、また、人とテクノロジーとの接し方を変えるようなアイデアではありませんでした。例えば、iPhoneなどのスマートフォンは指紋認証ができますが、四六時中ポケットに持ち歩いているデバイスにも関わらず、触る度に指紋認証をして、自分が持ち主であることを証明する必要があります。生体認証にまつわる根本的な課題解決ができなければ意味がない、と考えるようになりました。また時を同じくして、市場ではウェアラブル技術への関心が高まっていたので、「根本的な解決とウェアラブルを組み合わせたら?」と考えたことがきっかけでした。

 

-Nymiの構想を具体的に製品化するための資金調達はどうしましたか?ハードウェアスタートアップには、Kickstarterなどのクラウドファンディングを使うところも多いようですが。

まだ構想のみで、プロダクトが存在しなかった2013年8月に、拠点であるトロントの出資家たちから140万ドルのシード投資を受けました。さらに、今年5月と8月の2回に分けて、シリーズAを調達しています。私たちがしたかったのは、資金を調達することではなく、Nymiの需要がどれだけあるかを立証することでした。ハードウェアは、ソフトウェアのように簡単にピボット(方向転換)できませんから。それをKickstarterで行うのか、それとも独自にサイトを立ち上げて事前予約を受けるのか。Kickstarterを使ってしまうと、予約の時点で既に支払いを済ませている人を1年もの長い期間待たせてしまうことになると考え、自社で行うことにしました。

 

デベロッパーキットの提供で広がるNymiの可能性

-最初は、スマートフォンとコンピューターの生体認証に使えるということですが、今後、そこにいろいろなデバイスが追加されていくのですか?

そうですね。現時点では、スマートフォン、コンピューター、そしてタブレットが対象です。でも、カナダでは、Mastercardや地元の銀行などと組んで、お店での購入時に、クレジットカードやキャッシュレスで支払えるプロジェクトを試験運用しています。今後、このような試みを増やしていく予定です。また、Nymiのデベロッパーコミュニティがあるので、個人の開発者などがNymi専用のさまざまなアプリケーションを開発してくれています。

 

-当初から、デベロッパーキットを提供して、オープン プラットフォームの形で開発を進める方針だったのですか?

もちろんです。Nymiの価値は、そのプロダクトそのものより「いかに多くのアプリケーションと機能するか」だと考えています。Nymiは、ただ、ものやデバイスのロックを解除するためのツールではありません。むしろ、「パーソナライゼーション」にこそ、可能性を感じています。2013年9月に試験リリースして間もなく、デベロッパーコミュニティを開設しました。いろいろな方に、少しでも早くNymiのアプリケーションの可能性を考えてもらうためです。既に、個人デベロッパーから、オフラインの家庭やオフィスのセキュリティを事業にしているような企業まで、さまざまな方が参加してくれています。

 

-パーソナライゼーションというのは、具体的にどういったことですか?

現在は、自分が自分であることを証明するために、パスワード、PINコード、キーといったものが存在し、ユーザーの労力を要します。それが手間であることを理解しているため、どうしても必要な時にだけ確認をする仕組みです。もし、本人確認を、ただ何かを身につけるだけの簡単なものにできれば、そこから、さまざまなものをパーソナライズするために使えるようになります。例えば、レストランに入るとすぐに、あなたの食の好みやアレルギーがわかったり、スマートオフィスに足を踏み入れれば、あなたの体調などに合わせて室温が変化したり。そんなあらゆる可能性を実現するためにも、デベロッパーコミュニティの皆さんの創造性を発揮してもらいらたいと考えています。

 

ハードウェア開発はやりがいのあるチャレンジ

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-Nymiを開発する上で最も難しかったことを教えてください。

ウェアラブルテクノロジーが必ず直面する課題の1つは、人間の身体サイズの幅です。リストバンドの大きさなど比較的シンプルなことですが、Nymiの場合、それに加えて、シグナルを使って心拍のリズムを測るため、どんな身体でも機能するセンサーを見つける必要がありました。また、ウェアラブルは肌に直接触れるものですから、アレルギーを持つ人が使えないのでは困ります。実際、Fitbitは、ニッケルを使用していたためアレルギー反応を起こしてしまうという問題がありました。こうしたさまざまな課題を、まだNymiを実際に使っている人が少ない状態でクリアするのは難しい挑戦でしたね。

 

-最近では、ハードウェア系のスタートアップがたくさん登場していて、もの作りがしやすくなったという声があります。Nymiの開発を通じて、その点はどう感じますか?

スタートアップというのは、何もないところからプロダクトを作って、それを市場に届けることですよね。過去10年間に誕生したスタートアップのほとんどが、ソフトウェア関連でした。SaaSなら、コンピューターにインストールしてもらう必要すらないため、一層やりやすいものです。一方、ハードウェアとなると、また話は別です。世間では、ハードウェアを作るのが簡単になったという意見もあるようですが、それはあくまで3D プリンティングやRaspberry Piなどによって、「プロトタイプの開発」が楽になったに過ぎません。消費者に届けられるプロダクトを開発する難しさは、過去も今も変わらないでしょう。資金も経験も必要でチャレンジもたくさんありますが、まだ世にない全く新しいものを届けるチャンスだと捉えています。

 

-「ウェアラブル」という言葉がバズワードのようになって久しいですが、ウェアラブルはこれからどうなっていくとお考えですか?私たちの生活に浸透するまでに、どれくらいかかるでしょうか。

ウェアラブルテクノロジーは、まだまだ新しい概念です。開発初期、Nymiがウェアラブルであることを人に紹介すると、「既に色んなウェアラブルがあるのになぜ?」と聞かれました。確かにさまざまなプロダクトが存在しますが、まだ、これといって浸透しているものはなく、人の「手首」という部位をどんなプロダクトが勝ち取るのかは見えていません。それはApple Watchかもしれないし、Samsungのスマートウォッチかもしれない。また、今後はファッションブランドがウェアラブルを手掛けるようになると思っています。現在、この領域に挑戦するのはテクノロジー企業ですが、ファッション性が弱い。ファッションブランドが、人が身につけたくなるようなウェアラブルを開発するのではないかと見込んでいます。

 

既存インフラとの組み合わせにある可能性

-Nymiの出荷予定時期は? また、社内では既に使っていますか?

年内には、事前予約をしてくださった方々に出荷する予定ですので、一般の利用者からのフィードバックが集まるのはそれ以降ですね。社内の人間は、既に使っています。今はNymiで、スマートフォンとコンピューターのロック解除ができるので、社内ではWindowsのコンピューターを認証するために使っています。Nymiをどう活用するかのアイデアはたくさんありますが、ユーザーに実生活で使ってもらうことで需要を確かめることができると思っています。

 

-どんな人たちがNymiに興味を示していますか?特定の人たちからの関心が高いようなことはありますか?

まず、テクノロジーへの関心が高いアーリーアダプター(初期採用者)がいます。フィットネスや健康関連のウェアラブルはいろいろ存在するものの、Nymiのような生体認証をコンセプトにするものは他になく、試してみたいというユーザーさんが集まっています。また、置き忘れ時のセキュリティを懸念する、頻繁に旅行する人からの関心も高いです。スマートフォンをほぼコンピューターのように使っているので、万が一、それを落としてしまったりすると、他人に仕事のメールや口座情報を見られてしまうリスクがある。そんな、人によっては5年に一度発生するかしないかの可能性があるため、パスワードや指紋認証などが保険として存在するわけですが、Nymiがあればそんな手間からも解放されますから。

 

-Nymiは、今後もウェアラブルという形状で提供していくのですか?長期的な構想があれば聞かせてください。

今はリストバンドという形ですが、Nymiの技術がハードウェアの形をとる必要はないと考えています。もしかすると、サードパーティのウェアラブル製品に私たちの技術を搭載することだってあるかもしれない。そこにはさまざまな選択肢がありますし、そういう意味では、私たちが開発しているのはプラットフォームであるといえます。

 

-Nymiにとって、日本市場の可能性をどう感じていますか?

日本からも、かなりの数の事前予約が集まりました。また、リクルートから資金調達もしています。日本には日本の、ヨーロッパにはヨーロッパ独自の、交通手段や決済システムがインフラストラクチャーが存在します。特に日本のインフラは他国に比べても高度です。既存のインフラストラクチャーと組み合わせることでNymiの価値が高まると思っているので、日本の企業ともいろいろな可能性を模索したいと考えています。

 


世のすべての”充電切れ”をなくすワイヤレス電力「Cota」がIoT時代にもたらす変革とは

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スマートフォンに代表されるように、私たちの周囲には、ウェアラブルやIoTの製品がますます増えています。こうした電気機器と切っても切り離せないのが、充電の問題。とても便利なスマートフォンですが、充電が切れてしまえば全く使い物になりません。そこには、当たり前過ぎて、私たちが見過ごしてしまっている「不便」があります。

そんな課題に着目し、解決を試みるのが、ワイヤレス電力の「Cota(コタ)」です。その場にいるだけで電子機器が自動的に充電される世界。スマホを含むデバイスから、バッテリーアイコンそのものをなくすことを目指しています。TechCrunch Tokyo 2014でも登壇した、Cotaを手掛けるオシア社の創立者でCEOのHatem Zeine(ハッテム・ゼイン)氏にお話を伺いました。

 

デバイスからバッテリーアイコンをなくす

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-ワイヤレス電力の「Cota」の製品概要を聞かせてください。

Cotaは、世界初のワイヤレス電力テクノロジーです。スマートフォン、リモコン、Google Glassなどの小さなデバイスやウェアラブルを自動的に充電するため、充電切れの心配がありません。「充電する」という行為や手間を、完全に忘れさせてくれるのがCotaなんです。もし、スマートフォンを充電することを一切考えなくてよいとしたら、そもそもスマートフォンにバッテリー残量のアイコンすら必要なくなると思いませんか。常にフル充電の状態なのですから。

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-今は、デバイスを購入する際に、充電方式や充電の持ちを確認しますが、その必要もなくなりますね。

その通りです。現在、デバイスには、「インタラクティブ」と「アクティブ」の2種類があります。インタラクティブとは、こちらが起こしたアクションに反応して何かをするデバイス。アクティブなデバイスとは、こちらが何もしなくても常にONの状態になるものを指します。

例えば、スマートフォンは、インタラクティブなデバイスです。人から電話がかかってくれば反応しますが、それ以外の時は、電力を節約するために、基本はスリープ状態です。もしスマートフォンがアクティブデバイスになれば、電話中の会話をもとに待ち合わせの場所をレコメンドしてくれたり、身の回りの安全を確認してくれたりできるようになります。デバイスのあり方そのものが変わるわけです。

-なるほど。ワイヤレス電力によって、すべてのデバイスが「アクティブ」になる未来があると。まさにIoTの世界ですね。

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ある市場調査会社は、2020年には250億のIoTのデバイスが存在するだろうと予測しています。でも、250億ものデバイスのすべてを、電源に差し込む、今の充電方式で充電できるでしょうか。ワイヤレス電力であらゆるデバイスがアクティブデバイスになれば、例えば、フォークやナイフなどがすべてデバイス化して、食べているもののカロリーを計算したり、食べ物の熱さを教えてくれたりするかもしれません。それを実現するためには、充電の課題を解決する必要があるのです。

ウェアラブルから医療業界まで多岐にわたる需要

-Cotaでワイヤレス充電できる距離、また、複数デバイスがあった場合にどう充電されるのか気になります。

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まず、Cotaの充電ステーション(送電機)のうち、広い範囲をカバーできるタイプを「Local Area Charger」と呼んでいて、9メートルの範囲で電力送信が可能です。もう1種類は、オフィスの会議室のテーブルなどに配置できる「Personal Area Charger」で、2メートルの範囲で送電できます。iPhoneを持っている人が範囲内に入ると、自動的に送電が開始されます。

また、BLE(Bluetooth Low Energy)を使って、デバイス側(受電機)が送電機にバッテリー残量を伝えますので、バッテリー残量の少ないデバイスを優先的に充電できます。この優先順位は設定することも可能です。

-環境への優しさという点ではどうでしょうか?例えば、従来の乾電池などと比べた場合の電力の効率はどうですか?

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Cotaの充電式乾電池の提供も予定しています。従来の乾電池の形に、 Cotaの電力受信機を搭載したものです。今は、乾電池が切れてデバイスが動かなくなると、電池取り出して捨てますよね。実は、1本の乾電池を作るためには、乾電池の容量の2,000倍のエネルギーを要するんです。つまり、乾電池の節約は、それだけでエネルギーの節約になります。Cotaの充電式乾電池なら、半永久的に利用することができるため 、地球上に排出される化学物質の量を削減するグリーンエネルギーでもあるのです。

-ワイヤレス電力に関しては、人体への影響なども懸念されていますが、安全性の面はどうでしょうか?

既に、スマートフォンのメーカーなどと共同開発を進めていますが、安全性が確保できていない技術を取り入れる企業はいないでしょう。Cotaは、Wi-FiやBluetoothと同じ周波数を使って充電するため、人体に無害なのです。また、スマートフォンのエミッション信号が2ワットであるのに対して、Cotaは、その半分の電力レベルですので安全だと言えます。

-リリース初期段階では、どんなユースケースを想定していますか?

当初のターゲットは、消費者市場におけるウェアラブルデバイスやスマートフォンなどです。例えば、私もFuelbandなどのウェアラブルデバイスをつけていますが、充電することを忘れてしまうと元も子もありません。また、充電するために身体から外してしまうと、その間のデータ取得ができません。ウェアラブルデバイスの分野は、自動充電による利便性が特に高い分野だと認識しています。

-業界や企業による導入はどうですか? 特に関心が高い業界があれば教えてください。

特に、メーカーや小売り、また医療業界から関心が集まっています。メーカーなら、工場内のすべてのセンサーをワイヤレス電力で充電することも可能になりますし、医療業界では、患者向けの医療機器や手術用機器をワイヤレス充電する需要が非常に高いです。

現在、病院内のさまざまなデバイスは、バッテリーまたはワイヤー充電式です。コードの長さがネックになって、機器の配置や使い勝手が制限されてしまう課題があります。例えば、手術の現場では医療用メスが、血管を閉じて出血を抑える効果のある、熱を使う電気装置に置き換わっています。こうした電気装置をワイヤレス充電式に変えることで、より制限なく手術に望むことが可能になります。

 

不可能を信じさせるという最大の課題

-Cotaを開発するに至った背景を教えてください。

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私はマンチェスター大学で、物理学の研究をしていました。物理学は私にとって情熱そのものです。データコミュニケーションの品質を向上させる方法を模索している最中に、エネルギーをうまく集中させてシグナルを鮮明にすると、膨大な量の送電が可能になることを発見しました。それが、Cotaのワイヤレス電力の発想につながりました。

-ワイヤレス電力を作ろうとしていたわけではなく、ある意味、偶然の産物だったんですね。

その通りです。これは常々感じていることですが、エンジニアに対して「この問題を解決してほしい」と依頼すると、彼らは目の前にあるツールを使って解決しようとします。そこにないツールには目を向けようとしない。でも、科学は、コモンセンス(一般常識)ではありません。例えば、車に2倍のガソリンを入れたら、2倍の距離を走行する。これは常識ですが、2つのアンテナで受信機に送電した場合、2倍ではなく4倍のエネルギーを送ることができるんです。既存の知識や経験にとらわれずに、新しく発想することが求められる領域だと思っています。

-口で言うのは簡単ですが、それを実践するためのコツのようなものがあれば教えてほしいです。

私の口癖は「Imagine」(想像してみよう)です。あらかじめ用意された線路をたどっても、みんなと同じ場所にしか到達できません。まだ世の中に存在しないものを実現するには、信じて飛ぶしかないことがあるんです。もちろん、行き止まりで落胆することもありますし、その問題が重要であればあるほど、強固な壁にぶつかるものです。そんな時は、目の前の壁に振り回されず、最終的なゴール、自分たちが実現したいことの価値を考えること。たどり着く先が見えると、一つ一つの壁は小さく見えるものです。

-Cotaを開発する上で、最大の課題は何でしたか?それをどう乗り越えたかを聞かせてください。

一番難しかったのは、そもそもCotaが実現可能であることを人に説得することでしたね。まだ全くプロダクトがない状態ですし、投資家にワイヤレス電力の話をしても誰も信じてくれない。私は既に、中東のヨルダンでSIerを創業し、実績もあったので、それを知っている家族や友人が資金を出してくれました。チームが増えて研究開発が進み、製品化が具体的になってきたことで、今では資金調達もしやすくなりました。1カ月ほど前にも、新たなラウンドの資金調達を終えたばかりです。

Cotaと相性がいい日本

-Cotaは、東京のような人口密度の高い場所では特に有効ですよね?今から楽しみです。

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そうですね。人口密度が高ければ、それだけデバイスの数も多く、Cotaへの需要があると考えられます。私たちが、リクルートというパートナーを迎え入れて日本市場への参入に積極的な理由は、日本が先進的な社会だからです。過去50年間、日本という国は常に新しい技術を取り入れており、スマートフォンの導入もいち早く行いました。そんな社会なら、Cotaへの関心また需要も高いだろうと見込んでいます。

-ワイヤレス電力自体がまだ夢のような話に思えるのですが、Cotaが製品化されて消費者の手元に届くのはいつ頃になりそうですか?

消費者向けのCotaに関しては、2015年の終わりに製品が完成する予定です。翌年2016年には、家電量販店などで販売できるでしょう。スマートフォンのカバー式の製品も提供するです。世間には、Cotaのようなワイヤレス電力の技術を、「Startrek technology」(スタートレック・テクノロジー)と呼ぶ人もいます。スタートレックの映画に登場するカーク船長が、自分のフェイザー(兵器)の充電切れにあたふたするシーンは存在しないからです。 Cotaの技術が、それを現実のものにしてくれるはずです。


ユーザーベース拡大にレバレッジを効かせる「コマーケティング」 Uber Japan髙橋社長が語る成功の秘訣とは

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ヒト、モノ、カネ、あらゆるリソースに制約を抱えるベンチャー企業は、どのようにしてユーザー数を拡大していけばよいのでしょうか。その1つの解であろう「コマーケティング(co-marketing)」というコンセプトを紹介します。

コマーケティングとは、複数のベンチャー企業がパートナーシップを組むことでお互いのリソースを活用し、マーケティングにレバレッジを効かせる手法のことです。

今回は、そのコマーケティングに、日本、そしてグローバルで先駆的に取り組んできたハイヤー、タクシー配車アプリ「Uber」の日本法人社長 髙橋正巳氏に、企画、実施の秘訣を聞きました。

 

Uberの「マジカル」な体験をしてもらうために

-日本での事業展開とこれまでの実績は?

Uberはアメリカ・サンフランシスコで2010年に開始し、現在世界50カ国、230都市以上でサービスを提供しています。日本では東京で昨年11月から試験運用を行い、今年3月に正式にサービスを開始しました。黒塗りのハイヤーを呼ぶ「UberBlack」は日本上陸当初から展開し、今年8月からはタクシーを配車する「uberTAXI」、ハイクラス車種のタクシーを呼べる「uberTAXILUX」をサービスラインに追加しました。

Uberの特徴は、車を1台も自社で保有せず、ユーザーとドライバーをつなぐプラットフォームを提供するテクノロジーカンパニーであること。日本では旅行代理店業として運営しています。東京でサービスを開始した直後、参考値として、他の大都市と比べて2〜3倍の需要がありました。高品質なサービスに対する期待が高いのだと思います。

サービスがこれほどまでに広がっているのは、“2タップでハイヤーやタクシーが呼べる”、“キャッシュレスでクルマを降りられる” という、便利かつこれまでになかった斬新な機能をUberが世界で初めて提供したからだと考えています。スマートフォンの位置情報機能を使って現在地まで車を呼び、アプリのクレジットカード決済機能を使うことで降りるときに小銭を探す手間がなくなりました。

他社が提供している配車アプリとは、Uberは全く異なる新しいマーケットを作っていると考えます。Uberはハイヤーからタクシーまで幅広いラインアップを提供しており、接待などのビジネスユースから、記念日のイベントの送迎や普段使いなどの個人ユースまで、さまざまなニーズに応えられる点はユニークだと思います。

 

-Uberのマーケティング戦略は?

マーケティング上、最も重要だと考えていることが、ユーザーに実際にサービスを体験してもらうということです。ウェブサイトや他の人からのクチコミでサービスについて知ってもらうことも大切ですが、“2タップでハイヤーやタクシーが呼べる”、“キャッシュレスでクルマを降りられる”、そういったUberの「マジカル」な体験をしてもらいたいと考えています。

私もサンフランシスコに住んでいた頃に、初めてUberを利用したときのことは今でも鮮明に覚えています。ことわざの“Seeing is believing.(百聞は一見に如かず)”ならぬ、“Riding is believing.”という考えに基づき、さまざまな企画に取り組んでいます。

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今年7月に実施した、イタリアンジェラートを届ける「Uber アイスクリーム」の取り組み

 

金銭的なやり取り一切なし。Win-Winでユーザーを増やす

実施している施策は大きく2つに分けられます。これが今回のテーマである「コマーケティング」に関わる部分です。

1つは、「オンデマンド型」。パートナー企業ごとに異なる企画を展開するパターンです。Uberは、人だけでなく、いろんなものを運べる汎用性の高いプラットフォームです。例えば、今年7月には、世界144都市で、1日限定で“アイスクリーム”を運ぶ企画を実施しました。アプリの車両選択の画面で、ハイヤーに加えアイスクリームという選択肢を設けました。

日本では「GROM」というイタリアンジェラートのブランドと、同じ施策を展開し、ユーザーにジェラートとUberオリジナルのサングラスをセットで届けました。“アプリで呼んだらすぐに来る” “キャッシュレスで利用できる”というサービスの特徴を、一味違った形で疑似体験してもらう企画でした。マーケティングに限らず、Uberは常にサプライズを提供することを大切にしています。

もう1つは、「プロモーションコード型」。さまざまな業界・業種の企業のサービスと、Uberの配車サービスを組み合わせてユーザーに提供するものです。例えば、特に反響の大きかったものでは、有料会員制のレストラン予約サービス「LUXA RESERVE(ルクサ リザーブ)」でサインアップするとUberのプロモーションコードをプレゼントするという企画。ハイヤーとレストランの組み合わせは評判でした。

カップル専用アプリ「Between(ビトウィーン)」と「AEONシネマ」との企画では、抽選で5組のカップルに、都内から、横浜・みなとみらいの映画館までハイヤーで移動できるUberのプロモーションコードと、イオンシネマみなとみらいで開催される映画『ホットロード』試写会ペアチケット、そしてみなとみらいの夜景が見えるカフェスペース「Café 35mm」で使えるドリンクサービスをプレゼントしました。

こうした少し特別なシーンを演出する企画もあれば、どこかの企業とコラボレーションして社員限定でプロモーションコードを配布するような、よりシンプルな企画もあります。そこまでターゲットユーザーや訴求する利用シーンは絞り込まず、また企業との金銭的なやり取りが発生しないWin-Winな形でそれぞれ実現しています。

 

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カップル専用アプリ「Between」と実施した、恋人たちを映画館まで送迎する取り組み

 

相手が大企業でも口説ける

-コマーケィングを成功させる秘訣は?

まず、ターゲットはUberを利用したことがない人たちです。彼らにUberのサービスとはなんぞや、ということを伝えなければなりません。企画を考える上では、ただプロモーションコードを配布するだけではUberの価値を理解してもらえないということが分かってきました。「Uberが可能にする魅力的な体験」を企画することが、認知度と利用者数を高める上でとても大切です。

もう1つは、パートナー企業とのコミュニケーションです。具体的な企画を提案、検討する前に、相手がリーチしたいターゲットやコラボレーションのねらいを聞き、きちんと理解することが、企画においても、オペレーションにおいても重要です。

-ベンチャーにとっての、コマーケティングのメリットは?

新しい企業ほど、Facebookページのフォロワー数やユーザーベースの規模は小さいはずですから、自社だけでリーチできるユーザーも限られていると思います。資金面での制約もあるでしょう。コマーケティングは、自社だけではリーチできなかった潜在ユーザーと1対nでコミュニケーションが取れる有効な手段です。多くの顧客を抱える企業と組めば、それだけポテンシャルが大きくなります

ベンチャーが自社よりも規模の大きな企業を口説く難しさはたしかにあると思います。Uberの場合、時にはアイスクリームを、時には子猫を、時にはヘリコプターを呼べるような、かっとんだ企画を繰り返しやってきました。そのうちに、“Uberとだったら、なにかおもしろいことができるかもしれない”と期待をかけられるようになるものです。

また一方で、“Done is better than perfect.”。初めから大きな企画を成し遂げようとするのではなく、まずはライトな形でもやってみることが大事。マーケティングに限らず、Uberでは難易度が高すぎることに時間をかけてやるよりは、できる範囲のことを着実にやることを重視しています。

-今後の展開について、お聞かせください。

おかげさまで、ハイヤーからタクシーまで幅広いラインアップを提供できるようになりました。東京のユーザーの皆さまにさらに利便性の高いサービスをお届けできるようにしていきたいです。日本でのサービスをスケールできると判断したタイミングで、新しいサービスの展開、エリア拡大も模索していきたいと思います。

今回、Uberの広報部のお申し出によりHRナビ読者限定のクーポンコードの配布が実現しました。初めて乗車される方を対象に割引されます。取材を単なる取材で終わらせない。その姿勢こそが、Uberが次々とコマーケティングを実現させている理由なのかもしれません。

Uberの「マジカル」な体験をぜひこの機会に。

【Uber Japan × HRナビ クーポンプレゼントキャンペーン】

■コード:hrnavi

■割引: 初回のご乗車に限り4,000円までご乗車いただけます。ハイヤーのみに適用されます。

■有効期限: 2015年1月31日

■応募条件
※UBERを利用して初めてご乗車される方

■利用方法
※無料コードのご利用には、UBERアプリのダウンロードが必要となります。「プロモーション」という箇所にコードをご入力いただきますと、自動的に初回のご乗車にてコードが適用されます。

■注意事項
※換金および権利の譲渡はできません。
※お一人様1回とさせていただきます。
※利用エリア(六本木・渋谷・恵比寿・青山・表参道・広尾・麻布・白金高輪・溜池・霞ヶ関・汐留・新 橋・銀座・丸の内・日 本橋などを中心とした東京エリア)が限られておりますので、ご確認ください。
※UBERに関するご質問はsupporttokyo@uber.comま でお問い合せください。
※本コードはハイヤー配車を行う時のみ、ご利用いただけます。TAXI、プレミアムTAXIではご利 用いただけませんので ご了承ください。
※4,000円未満のご利用の場合でもおつりは出ません。
※4,000円を超えた部分はお客様のご負担となります。
https://www.uber.com/cities/tokyo