求めるのはスキルより「タケノコ人材」 freeeが実践する即戦力採用

会計の専門知識不要で使える全自動型クラウド会計ソフトを手がけるfreee(フリー)。2013年3月にサービスを開始し、それからわずか2年弱で約15万社が導入するサービスに成長しています。創業当初3人だった社員は、今ではインターンも含めて80人以上に拡大しました。そんなfreeeはどのような基準で人を採用しているのでしょうか。12月に京都で開かれた「IVS 2014 FALL」で、同社取締役COOの東後澄人さんが自社の採用戦略について語りました。

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スキルよりも伸びしろを重視

採用のこだわりとしては3つあります。

1点目は、文字にすると陳腐な感じがするんですけれど、タケノコみたいな人材を採用するのをこだわっています。

スタートアップにはものすごくスピードが求められます。1分1秒を争う世界では、即戦力を採用しようとすると、スキルがある人を採用しようとなりがちです。freeeはそうではなくて、重視するのは、どれだけ成長スピードが速いか、そして、まっすぐ伸びるかというところで、それはタケノコなのかなと思ってるんです。

竹には節があって、その節と節の間が伸びるんですね。すごく細かい単位でそれぞれが伸びることによって、1日で最大1メートルも伸びる。それと同じようにfreeeでも、細かいサイクルをすごいスピードで回してみて、駄目だったら次に行く。そういうサイクルをデイリーで回すことによって、急激なスピードで成長できるんじゃないかなと。まっすぐ伸びることも大事なので、そういう人材になり得る人なのかどうかは、こだわりのポイントとして持っています。

竹って丈夫であるだけでなく、フレキシブルなんですよね。スタートアップは環境変化がすごく激しいので、いかに丈夫か、いかにフレキシブルか、というところも重要です。なので、実際に人とお会いする時には「この人がタケノコ的な人なのかな?」みたいなことを考えながら採用しています。

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2点目は、freeeが定める5つの価値基準(上記写真を参照)を実現できる人かどうかということです。

簡単に説明しますと、「MAJIDEKACHIARU(マジで価値ある)」は本当にユーザーに価値があるもの。「アウトプット思考」はとにかくやってみて、次はその後に考えられるかどうか。「ハイパー目標」は高い目標で事業をできる人なのか。「かたまりだましい」はゲームから来たもので、周りを巻き込んだり、逆に巻き込まれながらやっていけるか。「Hack everything」は何でもハックしながらやっていこうということです。

これらは経営チームが出したというよりは、全社員から上がってきたものを5つにまとめたものです。弊社のトイレには価値基準を全部貼りだしていて、トイレに行くたびに目に入るようになっています。実際に、採用時にもこれらの価値基準に合致するかどうかを、1つ1つ結構こだわって見ていたりします。

スタートアップだからこそ余力を持った採用を

3点目は、常に「110%」を考えています。スタートアップはやることがたくさんあって、ギリギリの状態で100%で走り続けることが多いんです。そうすると、新しいことにチャレンジしたいとか、何か緊急でこれをやりたいという時に、リソースが割けずに「じゃあ諦めよう」となりがちです。その反面、110%くらい、ちょっとの余裕があればフレキシブルな意思決定ができるというのが、過去に何度もありました。

採用でも同じことが言えます。任せる仕事は明確に決まってなくても、何かを任せられるタケノコ人材だと思えば採用する。そうすると結局、やることが後からたくさん出てくるんです。結果として、その人が活躍することを何度も経験をしてきているので、多少の余力を持って採用することを意識しています。


モデルは「Google最初の21人」 スマニューに見る、エンジニア集団の作り方

成長している企業はどんな戦略で採用に取り組んでいるのか――。12月に京都で開催された「IVS 2014 Fall」で、「成長企業の採用力」というテーマのパネルディスカッションが行われました。登壇したスマートニュース代表取締役会長共同CEOの鈴木健さんは、「レアルマドリード」と「Google」をモデルにした採用を実践していると言います。以下、鈴木さんの主な発言をまとめました。

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メディアではなくエンジニアの会社

スマートニュースは2012年6月、僕と共同創業者の浜本(階生)の2人で始めた会社です。ネット上にあふれる膨大な情報の中から、本当に良質なコンテンツだけをアルゴリズムの力を使って抽出して、たくさんの人に届けることをミッションにしています。

どんな考え方でサービスを運営しているか。1つ言えるのは、「コンテンツを愛しています」ということです。僕自身も、『なめらかな社会とその敵』という本を書いていますが、メンバーの中には、コンテンツを作ってきた人が多いんですね。

もう1人、コンテンツを愛する人の例を出すと、藤村(厚夫)さん。元々はアスキーで雑誌や書籍の編集をしていて、アットマーク・アイティを創業して、アイティメディアの会長として上場して、その後にスマートニュースに参加してもらいました。紙、ウェブ、スマホアプリの世界を全部知っているんですね。昔は文芸批評までやっていて本当にすごい。コンテンツを愛するメンバーが集まっている感じです。

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オフィスは世界3箇所にあります。ニューヨークに2人、それからサンフランシスコに4人、東京に28人います。特筆すべきなのは、バイズプレジデント(VP)コンテンツ担当として入っていただいたリッチ(・ジャロスロフスキー)さん。アメリカにおける藤村さんに相当する人です。藤村さんはスマートニュースでメディアとの関係性を全部構築してくれたんですが、我々がアメリカに進出する時には「アメリカ版の藤村さんが必要だよね」と連呼してました。

リッチさんはもともと、1994年にウォール・ストリート・ジャーナルオンラインが立ち上がった時のマネージングエディターだった人なんですね。ブルームバーグのエディターもやっていて、著名なガジェットコラムニストでもあります。こういう話をすると「スマートニュースってメディアの会社なの?」という印象を持たれると思うんですけども、実際にはエンジニアの会社です。社員の半分以上はエンジニアなんです。

ユーザーを熱狂させるのはエンジニアの仕事

僕が組織作りで意識しているモデルの1つに、レアルマドリードがあります。

どういうことかと言うと、スマートニュースは社会のためにニュースを届けたいと考えてるんですね。ユーザーにニュースを届けるためには、プロダクトが重要です。プロダクト中心主義というのはユーザー中心主義とほぼ等しいわけですけども、実際にプロダクトを作るのはエンジニア。僕らがレアルマドリードと言うのは、実際にサッカーをする人がエンジニアであるわけです。

例えば、メッシとかクリスティアーノ・ロナウドは、最高のプレーをすることを通じてスタジアムを歓喜させるわけですよね。僕達も同じように、エンジニアが最高のプロダクトを作ることを通してでしか、ユーザーを熱狂させられないという信念でやってます。「エンジニアはアスリートである」という考え方のもと、採用ではエンジニアに一番注力しています。

サッカーチームが最高のパフォーマンスを出すには、例えば最高の芝生が必要になります。グリーンキーパーがいて、はじめてメッシは最高のドリブルができる。だからこそ、オフィスの環境を整えることは大事。コーポレート部門の人達も、エンジニアの環境を最高に良くすることをミッションとしています。僕らが一流のチームを作るためには、日本代表から「世界選抜」に選ばれるレベルのエンジニアを集める。エンジニア以外にも、世界選抜レベルのメンバーを集めていこうと思っています。

Google最初の21人の半数以上はエンジニアだった

もう1つ、組織作りで意識しているのがGoogleです。世界で最高レベルのエンジニアが集まる企業というと、Googleをモデルにせざるを得ないわけですね。

Business Insiderの記事で、「Googleに入社した最初の21人が今現在、何をしているか」っていうエントリーがあったんですよ。最初の社員はラリー・ペイジやセルゲイ・ブリンがいて、21番目がマリッサ・メイヤーなんですけども。

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その記事を読んで気になったのが、最初の21人は入社前に何をやっていたということで、自分でググって調べてみたんです。(以前のキャリアを調べると)大学院の准教授とか博士号とかがゴロゴロしてるんですね。そういうのを見て、ある法則に気がついたんです。

それは何なのかと言うと、Googleのエンジニアの人数は、全体の社員の50%を割ったことがないんです。僕は勝手に「50%ルール」と名づけて、同じようにやりました。スマートニュースの最初の21人も、50%を下回っていません。(50%ルールは)自分で発見したつもりだったんですけど、実はエリック・シュミットが書いた『How Google Works』にその話が書いてあって。Googleは意識的にやってたわけですね。

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A級はA級を連れてくる、B級はC級を連れてくる

実際にどういった採用基準でやっているかっていうと、いわゆる、Aクラスの人材だけを採用することにしています。Aクラスの人はAクラスの人を連れてくる。Bクラスの人はCクラスの人を連れてくるという格言があるんですけども、迷わずにAクラスと思う人だけを採用すると。だから、判断に迷ったら採用しません。

それから、紹介ベースの採用が非常に多いのも特徴です。全体の8割は社員紹介で、社員全員が採用担当者のような感じ。さらに言うと、経営者の30%の時間は採用に使うようにしています。そしてもちろん、今でも「50%ルール」を守っています。

特にエンジニアの採用は、エージェント経由が少なくて。エンジニア同士のネットワークが重要になるんですね。なので、やっぱりエンジニア一人ひとりが採用担当者になった意識を高めてもらうようにしています。例えば、いろんな学会とか研究会で発表してもらって、段々と認知を上げてもらうとか。

あとは月に1回パーティーをやっています。そこで軽くエンジニアの人たちを集めて、仲良くなってもらうような感じでやってます。

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変なプログラムを書く人がいないアスリート的な環境

エンジニアの人たちって基本的に、あんまりお金とか報酬ではなくて、やっぱり仕事をしたいんですよ。優秀なエンジニアほど、良い仕事をしたいと思ってるんですよね。

良い仕事をするためには、環境が大事だと思うんです。環境というのは2つあって、1つは、周りに優秀なエンジニアがたくさんいること。そうすると、変なプログラムを書く人がいないから、自分が生産的にやれるわけです。わからないことがあったら聞けて、切磋琢磨できる。まさにアスリート的な環境ですよね。自分たちが競り合ってレベルアップして、もっと上を目指すみたいな。

良い仕事を環境でもう1つ必要なのはオフィスなんですよね。やっぱり働く環境ってすごい大事。うちは靴脱スペースがあるんですよ。無印(良品)で売ってる、「人をダメにするソファ」みたいなのあるじゃないですか。あれが靴脱スペースに大量に置いてあって、そこで寝そべったり、腹ばいになったりとか。「何でこんな格好でコーディングできるんだ?」っていうクリエイティブな格好でみんな仕事してるんですよ。そのスペースが大人気で、もう本当にあふれかえっちゃうくらいなんですけど。そういう、働く姿勢。姿勢っていうのは別に精神的な態度じゃなくて、本当に物理的な姿勢が、採用の役に立ってると感じています。