競合がいきなりおそいかかってきた! ある学生起業家の試練

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大学生のうちにスタートアップを立ち上げる学生起業家がいる。まだ社会に出る前から事業を育て上げるにはさまざまな努力と工夫が必要だろう。ドリコム主催のイベント「ベンチャーという働き方、起業という働き方」で、いま注目されている学生起業家と新卒社長が登壇し、創業初期の経験を語り合った。

登壇者は出前代行アプリを運営するdelyのCEO・堀江裕介さん、漫画サービスを展開するStone FreeのCEO・石黒燦さん、音楽ストリーミングアプリ「DropMusic」を提供するIgnom代表取締役・吉田優華子さんの3人だ。

特に起業を志す学生や、若手の起業家は必見の内容だろう。例えば、なぜ彼らは若くして創業という道を選んだのだろうかーー。

返ってきたのはこんな答えだ。

「とりあえずやるか」で創業を決めた

delyの堀江さんは特にビジョンがあったわけではなく、「とりあえずやるか、みたいな感じで始めちゃった」と話す。現在は比較的資金調達がしやすい状況にあることから、「やるなら良いタイミング」と判断し、踏み出したそうだ。今年の4月にサービスを立ち上げ、都内でケータリングを提供。すでに合計4社から資金を入れて運営している。

出前の代行というサービスを選択した理由については、「まず自分ができることは何か。僕は頭も良くないし、プログラミングができるわけではなかった。営業くらいしかやることがないなと。営業が上手く活用できるモデルというと、それは飲食店ではないか。自分にできることをやろうと思った結果ですね」と振り返る。

Stone Freeの石黒さんはなんと中学・高校時代から貿易業者としてビジネスを経験していた。ただし、徐々に飽きていったのだという。

「海外から安く仕入れて、日本に卸していろいろなところで売るっていう繰り返しで、ただ口座のお金が増えていくだけで面白みがない。どうせやるんだったら大きなことをやりたいと考えていて、だったらもうベンチャーやるしかないなと、創業しました」。

まだ20歳で大学1年生だが、「早いタイミングで挑戦した方が、時間をかけていろいろなことを吸収していける」と考えたそうだ。現在はオリジナル漫画を世界に向けて無料配信するサービスを開発している最中だ。

大学時代、超ダサい会社を起業して潰した

Ignom代表取締役・吉田優華子さん

Ignom代表取締役・吉田優華子さん

吉田さんは前の2人とは異なり、ドリコムに新卒で入社した後に子会社のIgnom代表に就任した。やはり起業したいという気持ちはかなり前、なんと小学校6年生の時から持っていたという。

父親から「女性なら自立してかっこよく生きろよ」と言われ続け、さらに2人いる兄にも負けたくないと思ってたことから、自然と起業を考えるようになった。大学時代には一度、「超ダサい会社を起業して潰した経験があった」のだそうだ。

2013年の新卒でドリコムに入社し、現在は社会人2年目。1年目にソーシャルゲームのディレクターとなり、2014年4月からIgnomの代表に就任した。代表に選ばれたときは、即答で「はい、やります」と応じたが、あまりに早い回答だったため「もうちょっと考えてきていいよ」と止められたくらいだという。DropMusicはすでに500万ダウンロードを突破している。

「楽しさ1、苦しさ9」会社員と起業家の違い

いちスタッフとして働くことと、起業するのとでは、実際にどんなところが異なるのだろうか。堀江さんは企業のインターン時代のことを思い出して、「とりあえず認められることは簡単だった。人の10倍くらい働く時間を増やして頑張れば、認められる」と言い切った。

しかし起業は違ったという。「いくら頑張っても、あれ? これ無理じゃねえか?みたいなことが無限にあった。僕らの競合はすべて上場してる会社なので、資本力の差は単純に努力だけじゃ埋められない。インターンの時はまだ社会の仕組みみたいなのがまだ見えてなかったと思います」と話した。

さらに「楽しさと大変さを比率で表すならば、僕の場合は楽しさ1、苦しさ9くらいです」と続ける。「正直なところほぼ辛いです。ほぼ辛いけど、それは顔に出してはいけないので、なるべく出さないように頑張る。創業前は2ヶ月開発が遅れて、飲食店に2ヶ月間ずっと謝るっていうのを1人でやっていました。あの時は本当に死ぬほど苦しかったですし、やっぱり9割苦しいですね」と笑った。

良い意味で息つく暇がない

Stone FreeのCEO・石黒燦さん

Stone FreeのCEO・石黒燦さん

逆に起業したからこその楽しさという面はどうか。石黒さんは漫画・アニメのサービスを作っているため、そういったコンテンツが生まれる場に立ち会えることが一番の面白さだという。

「例えばいままでは中国に漫画家がいるって全然知らなかったですが、本当にすごい人が発掘できた。なおかつ彼らとパートナーシップを結んで、海外に配信していけるような場を作れるというのは、自分にとってはかなり楽しい」と活き活きと語った。

吉田さんは「良い意味で一息つく暇がない」。まずスピード感の違いに圧倒されたという。「私が社長になったのが4月で、早速5月には日本レコード協会から呼び出された。日本の音楽業界をまったく知らないうちに代表になったので、まずは音楽業界の仕組みを学ぶところから始まったんです。でも、これから新しいデジタルミュージックを広げていくために、日々いろいろな方に会ってお話をさせていただいてるというのは、大変でもあり楽しい」と話す。

10代女子に会うため渋谷に入り浸る

吉田さんは業界関係者だけでなく、DropMusicユーザーの中心世代である10代とも積極的に交流するようにしているそうだ。「大切にしてることはユーザー目線です。私は今24歳。10代の今どきの女の子と感覚そんな変わってないだろうなって思ってたんですけど、実際に週末は渋谷に入り浸って10代の女の子と話したりしてると、全然アプリに対する価値観とかが違ってました。私はもうオバサンなんだなって自覚しました」と話す。

さらになるべくユーザー世代の生の声を聞くために、電車の中で10代女子の後ろにぴったりくっついてどんなアプリを使っているかチェックしたり、クラブで知り合った10代の女の子とLINEを交換して、後日に直接会って話を聞いたりしているそうだ。

緑のメッセージアプリの会社が類似サービスを出してきた

delyのCEO・堀江裕介さん

delyのCEO・堀江裕介さん

堀江さんはとても興味深いエピソードを披露してくれた。堀江さんがあるイベントでdelyのプレゼンをしたところ、「緑のメッセージアプリの会社」の社長に高く評価された。その結果、delyの名前も売れ始めたのだが、なんとその3ヶ月後にそのメッセージアプリの会社が類似サービスを発表したのだそうだ。

堀江さん、そのときの心境は「うわー!まじかよ」という感じだったそうだ。しかし「実際ぶん殴りあっちゃいけない相手っていうのはいて、正面からベンチャーがぶつかっても勝てない」と振り返る。

おそらくそのプレゼンイベントはSKYLAND VENTURESというベンチャーキャピタルが主催した「STARTUP SCHOOL」だろう。緑のメッセージアプリの会社は言うまでもなくLINE株式会社だ。STARTUP SCHOOLで審査員を務めたLINEの森川亮社長は自身のブログの中ではっきりと「私はこの中で特にdelyというケータリングのサービスをベストプレゼンテーション賞に選ばせていただきました」「代表の堀江さんはまだ慶応大学の学生ということで楽しみですね」とまで記している。

そしてその4ヶ月後にLINEは事業戦略発表イベント「LINE CONFERENCE TOKYO 2014」を開催し、フードデリバリーサービス「LINE WOW」を発表した。明らかにdelyと競合する分野だ。

堀江さんはこう語る。「本当に自分たちが強いところと弱いところをしっかり把握して、勝てる市場をしっかり探していかないといけない。その判断を間違わないように。緑の会社にもなるべく喧嘩を売らないように、どうやったら一気に抜いていけるか。そういうことを考えつつ戦ってる感じですね」。非常に冷静である。

創業期の社長の役割は「買い出し」?

今まさに0から1を立ち上げようとしているスタートアップにおいて、求められる社長の役割とはどういったものだろうか。

石黒さんは「基本的にどんなことでもやらなきゃいけない」と話した。仲間が最もパフォーマンスを発揮しやすいように、考えられることはすべて自分の仕事になるのだという。吉田さんは「皆の足並みを揃えるところを意識しました」と振り返った。熱意はあっても方向性が揃ってなかったため、まず企業理念を明文化し、それを繰り返し言い聞かせたそうだ。最初の1、2ヶ月ってほとんどそれしかしてないくらいだという。

堀江さんはかなり具体的で、「最初の頃、僕の役割はモスバーガーと、あとコンビニで何か買ってくることだった」と言う。「皆コードを書いてたので、僕はやることがなかったんです。だからモスバーガーで買ってきてました。で、皆が喜んでくれれば良いかなって。だから僕はCMOですね、チーフ・モスバーガー・オフィサー」。

冬になって、いまはおでんを買うことが多いそうだ。「COOになりがちです。僕はあまり頭良くないので、あとはトイレ掃除やらせていただいてます」と笑った。


求めるのはスキルより「タケノコ人材」 freeeが実践する即戦力採用

会計の専門知識不要で使える全自動型クラウド会計ソフトを手がけるfreee(フリー)。2013年3月にサービスを開始し、それからわずか2年弱で約15万社が導入するサービスに成長しています。創業当初3人だった社員は、今ではインターンも含めて80人以上に拡大しました。そんなfreeeはどのような基準で人を採用しているのでしょうか。12月に京都で開かれた「IVS 2014 FALL」で、同社取締役COOの東後澄人さんが自社の採用戦略について語りました。

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スキルよりも伸びしろを重視

採用のこだわりとしては3つあります。

1点目は、文字にすると陳腐な感じがするんですけれど、タケノコみたいな人材を採用するのをこだわっています。

スタートアップにはものすごくスピードが求められます。1分1秒を争う世界では、即戦力を採用しようとすると、スキルがある人を採用しようとなりがちです。freeeはそうではなくて、重視するのは、どれだけ成長スピードが速いか、そして、まっすぐ伸びるかというところで、それはタケノコなのかなと思ってるんです。

竹には節があって、その節と節の間が伸びるんですね。すごく細かい単位でそれぞれが伸びることによって、1日で最大1メートルも伸びる。それと同じようにfreeeでも、細かいサイクルをすごいスピードで回してみて、駄目だったら次に行く。そういうサイクルをデイリーで回すことによって、急激なスピードで成長できるんじゃないかなと。まっすぐ伸びることも大事なので、そういう人材になり得る人なのかどうかは、こだわりのポイントとして持っています。

竹って丈夫であるだけでなく、フレキシブルなんですよね。スタートアップは環境変化がすごく激しいので、いかに丈夫か、いかにフレキシブルか、というところも重要です。なので、実際に人とお会いする時には「この人がタケノコ的な人なのかな?」みたいなことを考えながら採用しています。

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2点目は、freeeが定める5つの価値基準(上記写真を参照)を実現できる人かどうかということです。

簡単に説明しますと、「MAJIDEKACHIARU(マジで価値ある)」は本当にユーザーに価値があるもの。「アウトプット思考」はとにかくやってみて、次はその後に考えられるかどうか。「ハイパー目標」は高い目標で事業をできる人なのか。「かたまりだましい」はゲームから来たもので、周りを巻き込んだり、逆に巻き込まれながらやっていけるか。「Hack everything」は何でもハックしながらやっていこうということです。

これらは経営チームが出したというよりは、全社員から上がってきたものを5つにまとめたものです。弊社のトイレには価値基準を全部貼りだしていて、トイレに行くたびに目に入るようになっています。実際に、採用時にもこれらの価値基準に合致するかどうかを、1つ1つ結構こだわって見ていたりします。

スタートアップだからこそ余力を持った採用を

3点目は、常に「110%」を考えています。スタートアップはやることがたくさんあって、ギリギリの状態で100%で走り続けることが多いんです。そうすると、新しいことにチャレンジしたいとか、何か緊急でこれをやりたいという時に、リソースが割けずに「じゃあ諦めよう」となりがちです。その反面、110%くらい、ちょっとの余裕があればフレキシブルな意思決定ができるというのが、過去に何度もありました。

採用でも同じことが言えます。任せる仕事は明確に決まってなくても、何かを任せられるタケノコ人材だと思えば採用する。そうすると結局、やることが後からたくさん出てくるんです。結果として、その人が活躍することを何度も経験をしてきているので、多少の余力を持って採用することを意識しています。


モデルは「Google最初の21人」 スマニューに見る、エンジニア集団の作り方

成長している企業はどんな戦略で採用に取り組んでいるのか――。12月に京都で開催された「IVS 2014 Fall」で、「成長企業の採用力」というテーマのパネルディスカッションが行われました。登壇したスマートニュース代表取締役会長共同CEOの鈴木健さんは、「レアルマドリード」と「Google」をモデルにした採用を実践していると言います。以下、鈴木さんの主な発言をまとめました。

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メディアではなくエンジニアの会社

スマートニュースは2012年6月、僕と共同創業者の浜本(階生)の2人で始めた会社です。ネット上にあふれる膨大な情報の中から、本当に良質なコンテンツだけをアルゴリズムの力を使って抽出して、たくさんの人に届けることをミッションにしています。

どんな考え方でサービスを運営しているか。1つ言えるのは、「コンテンツを愛しています」ということです。僕自身も、『なめらかな社会とその敵』という本を書いていますが、メンバーの中には、コンテンツを作ってきた人が多いんですね。

もう1人、コンテンツを愛する人の例を出すと、藤村(厚夫)さん。元々はアスキーで雑誌や書籍の編集をしていて、アットマーク・アイティを創業して、アイティメディアの会長として上場して、その後にスマートニュースに参加してもらいました。紙、ウェブ、スマホアプリの世界を全部知っているんですね。昔は文芸批評までやっていて本当にすごい。コンテンツを愛するメンバーが集まっている感じです。

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オフィスは世界3箇所にあります。ニューヨークに2人、それからサンフランシスコに4人、東京に28人います。特筆すべきなのは、バイズプレジデント(VP)コンテンツ担当として入っていただいたリッチ(・ジャロスロフスキー)さん。アメリカにおける藤村さんに相当する人です。藤村さんはスマートニュースでメディアとの関係性を全部構築してくれたんですが、我々がアメリカに進出する時には「アメリカ版の藤村さんが必要だよね」と連呼してました。

リッチさんはもともと、1994年にウォール・ストリート・ジャーナルオンラインが立ち上がった時のマネージングエディターだった人なんですね。ブルームバーグのエディターもやっていて、著名なガジェットコラムニストでもあります。こういう話をすると「スマートニュースってメディアの会社なの?」という印象を持たれると思うんですけども、実際にはエンジニアの会社です。社員の半分以上はエンジニアなんです。

ユーザーを熱狂させるのはエンジニアの仕事

僕が組織作りで意識しているモデルの1つに、レアルマドリードがあります。

どういうことかと言うと、スマートニュースは社会のためにニュースを届けたいと考えてるんですね。ユーザーにニュースを届けるためには、プロダクトが重要です。プロダクト中心主義というのはユーザー中心主義とほぼ等しいわけですけども、実際にプロダクトを作るのはエンジニア。僕らがレアルマドリードと言うのは、実際にサッカーをする人がエンジニアであるわけです。

例えば、メッシとかクリスティアーノ・ロナウドは、最高のプレーをすることを通じてスタジアムを歓喜させるわけですよね。僕達も同じように、エンジニアが最高のプロダクトを作ることを通してでしか、ユーザーを熱狂させられないという信念でやってます。「エンジニアはアスリートである」という考え方のもと、採用ではエンジニアに一番注力しています。

サッカーチームが最高のパフォーマンスを出すには、例えば最高の芝生が必要になります。グリーンキーパーがいて、はじめてメッシは最高のドリブルができる。だからこそ、オフィスの環境を整えることは大事。コーポレート部門の人達も、エンジニアの環境を最高に良くすることをミッションとしています。僕らが一流のチームを作るためには、日本代表から「世界選抜」に選ばれるレベルのエンジニアを集める。エンジニア以外にも、世界選抜レベルのメンバーを集めていこうと思っています。

Google最初の21人の半数以上はエンジニアだった

もう1つ、組織作りで意識しているのがGoogleです。世界で最高レベルのエンジニアが集まる企業というと、Googleをモデルにせざるを得ないわけですね。

Business Insiderの記事で、「Googleに入社した最初の21人が今現在、何をしているか」っていうエントリーがあったんですよ。最初の社員はラリー・ペイジやセルゲイ・ブリンがいて、21番目がマリッサ・メイヤーなんですけども。

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その記事を読んで気になったのが、最初の21人は入社前に何をやっていたということで、自分でググって調べてみたんです。(以前のキャリアを調べると)大学院の准教授とか博士号とかがゴロゴロしてるんですね。そういうのを見て、ある法則に気がついたんです。

それは何なのかと言うと、Googleのエンジニアの人数は、全体の社員の50%を割ったことがないんです。僕は勝手に「50%ルール」と名づけて、同じようにやりました。スマートニュースの最初の21人も、50%を下回っていません。(50%ルールは)自分で発見したつもりだったんですけど、実はエリック・シュミットが書いた『How Google Works』にその話が書いてあって。Googleは意識的にやってたわけですね。

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A級はA級を連れてくる、B級はC級を連れてくる

実際にどういった採用基準でやっているかっていうと、いわゆる、Aクラスの人材だけを採用することにしています。Aクラスの人はAクラスの人を連れてくる。Bクラスの人はCクラスの人を連れてくるという格言があるんですけども、迷わずにAクラスと思う人だけを採用すると。だから、判断に迷ったら採用しません。

それから、紹介ベースの採用が非常に多いのも特徴です。全体の8割は社員紹介で、社員全員が採用担当者のような感じ。さらに言うと、経営者の30%の時間は採用に使うようにしています。そしてもちろん、今でも「50%ルール」を守っています。

特にエンジニアの採用は、エージェント経由が少なくて。エンジニア同士のネットワークが重要になるんですね。なので、やっぱりエンジニア一人ひとりが採用担当者になった意識を高めてもらうようにしています。例えば、いろんな学会とか研究会で発表してもらって、段々と認知を上げてもらうとか。

あとは月に1回パーティーをやっています。そこで軽くエンジニアの人たちを集めて、仲良くなってもらうような感じでやってます。

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変なプログラムを書く人がいないアスリート的な環境

エンジニアの人たちって基本的に、あんまりお金とか報酬ではなくて、やっぱり仕事をしたいんですよ。優秀なエンジニアほど、良い仕事をしたいと思ってるんですよね。

良い仕事をするためには、環境が大事だと思うんです。環境というのは2つあって、1つは、周りに優秀なエンジニアがたくさんいること。そうすると、変なプログラムを書く人がいないから、自分が生産的にやれるわけです。わからないことがあったら聞けて、切磋琢磨できる。まさにアスリート的な環境ですよね。自分たちが競り合ってレベルアップして、もっと上を目指すみたいな。

良い仕事を環境でもう1つ必要なのはオフィスなんですよね。やっぱり働く環境ってすごい大事。うちは靴脱スペースがあるんですよ。無印(良品)で売ってる、「人をダメにするソファ」みたいなのあるじゃないですか。あれが靴脱スペースに大量に置いてあって、そこで寝そべったり、腹ばいになったりとか。「何でこんな格好でコーディングできるんだ?」っていうクリエイティブな格好でみんな仕事してるんですよ。そのスペースが大人気で、もう本当にあふれかえっちゃうくらいなんですけど。そういう、働く姿勢。姿勢っていうのは別に精神的な態度じゃなくて、本当に物理的な姿勢が、採用の役に立ってると感じています。


「深夜までただ働き続けた」 最年少上場のリブセンス村上社長が語る、ベンチャー的な働き方

起業の仲間はどう見つけるのか? プロダクトのアイデアはどうやって考えるのか? メンバー同士で雰囲気が悪くなったらどうすればいいのか? 若手の起業家が悩みがちな様々なことを、最年少で上場したリブセンス代表取締役社長・村上太一氏が語りました。

聞き手は同じく若くして上場社長となったドリコム代表取締役社長・内藤裕紀氏。同社主催のイベント「ベンチャーという働き方、起業という働き方」でのやり取りです。以下、学生をはじめとした若い起業家は必見の内容だと思います。

ドリコム内藤裕紀氏(左)とリブセンス村上太一氏

ドリコム内藤裕紀氏(左)とリブセンス村上太一氏

高校からの同級生とリブセンスを起業

内藤:まずこれから起業したい人たちは、最初の初期メンバーをどうやって集めるかが大事。お金もないし、プロダクトすらない時に、最初の1人目が2人目をどう口説いて「一緒にやってくぞ」となるのか…。リブセンスは特に学生のとき、最初の1人目や2人目はどう口説いていったのですか。

村上:僕は最初、高校生の時に同じクラスだった友人とやろうとしました。彼は口説くも何もお互い「やるよね」みたいな。高校3年生で同じクラスだった友人だったんですけど非常に気が合って、それこそ当時ソフトバンクがあまり有名じゃない時に株について、「ソフトバンクは絶対上がるから買おうぜ」とか話してました。

彼とやろうと決めて、その後のメンバーはある程度「起業に興味あります」っていう人に「一緒にやろう」と言って、チームに入れていきました。無給なんですけど、「ちょっとヒアリング調査するから渋谷で該当者全員に声かけて聞くぞ」みたいな感じでプロジェクト振ったりとか、他にも飛び込みでアルバイトの領域からスタートしたので、「店舗にヒアリング調査行くぞ」とかって、ひたすら集合とかをかけました。

そうすると徐々に出席率が悪くなってくるんですよね、やる気のないメンバーは。起業前の段階で、いろいろな気が合いそうなメンバーに声をかけ、それでチームに入り、チームに入った上で、プロジェクトを一緒にやっていって、自然とドロップアウトがいて、残ったメンバーでやるという。そんな感じの動きでした。

「ちょっと両親が…」学生にとって最初の岐路は就活

内藤:優秀そうな人と性格的に合いそうな人と、どっちを優先してました? 最初の一桁のメンバーの時に優秀か、性格重視かって結構難しいと思っていて。

村上:優秀さとかはよくわからないんですよね、学生なので。ちゃんと動ける人かどうかは、一緒のチームに入れていって判断してました。アウトプットをしっかり出せるメンバー、行動がしっかりできるメンバーみたいな感じで。ちなみに内藤さんは?

内藤:僕も最初に似たような感じで、ばっーと同じように集まって、無給で働いていたわけです。みんな学生で優秀かどうかもわかんないんで、とりあえずやってみた。そうやって入っていくじゃないですか。

でも最初に抜けるっていうタイミングってどういう時でした? 特に1人目。みんな、どこかで退職みたいなタイミングが来るじゃないですか。

村上:創業メンバーは4名でスタートして、1人は実はすぐに抜けてしまってですね。実質3名みたいな感じなんですけど。3名の後にその後も継続的にメンバー集めをしていって、その中で、8人ぐらいのチームになったんですけれど、やっぱり就活のタイミングですね。残るのかどうかは。

「ちょっと両親が…」みたいな話があって抜けてしまうメンバーもいました。ただ、コアのメンバーというか、役員陣であったり、かなり責任の重い仕事をやっているメンバーは全員就活すらせずに残ってくれました。

2年目で7000万円の売上に

内藤:ちなみにその周りが就活に向かうタイミングの時に、リブセンス社の売り上げはどれぐらいあったんですか?

村上:生々しいこと言うと、どんどんきましたね。就活を迎える時には、利益はけっこう出ていたんです。創業メンバー3名で、実質大学1年生と2年生で立ち上げて、初めの1年は苦戦したのですが、2年目は売上高7,000万円、経常3,000万円くらいでした。

内藤:うちも2年目で7000万円だったので一緒だなと思ったんだけど、それでもみんなの生活を養っていくっていう意味では、本当にこれでいけるのかなっていうとこもあるじゃないですか。それでもやっていこうぜって、自分の中で絶対いけるぞという自信があったんですか。

村上:やっていこうぜっていうか、「やる」が前提なんですよね、みんな。ただ、両親を説得するとか、深く関わっていないメンバーはやる前提ではないので、あちらから言われてそうか、みたいな感じで終わり。

その当時は学生で、みんないろいろあって去る者は追わず。「やる」が前提のコアなメンバーが残っていました。ただ給料が当時5万円だったので、5万円だと両親にもさすがに不安にさせて申し訳ないので、20万円に上げるという握りだけをしましたね。

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「君、良い雰囲気だから一緒にやらない?」

内藤:学生のベンチャーとか、立ち上げるタイミングを見ていて、いつまで経ってもずっと1人、あるいは最初の2人のまま増えない状況をよく見るんですよ。最終的には1人でできることはすごい少ないから、サービスが伸びないのと連動している。最初の1人から増えないチームと、増えていくチームを何が分けるんですか。

村上:声かけって量だと思っています。私は授業で後ろの席から見て全員雰囲気だけで決めちゃうんですけど。雰囲気良い人がいたら、全員声かけてましたから。

内藤:具体的に何て?

村上:チーム入らないか、起業しないかと言うより、会社ができていたので、「いま実は会社やってるんだけど、君、良い雰囲気だから一緒にやらない?」みたいな。

内藤:それ頭おかしい人ですよね(笑)

村上:「オフィス遊びに来なよ」とか。

内藤:宗教の勧誘みたい。

村上:一歩間違えばそんな感じです。初めは無給なんですけど、「いろいろ良い経験できるよ」みたいな話をしてました。あとは高校時代の後輩とか、高校時代の同じクラスだった友人が手伝ってくれたりとか。

スタート時は4名で、でも実質3名みたいな感じ。初年度終わりのタイミングには7人ぐらいでやってました。当時は雇用契約もないので、正式に何名だったかという記録はわからないんですけど。確か7名ぐらいだった気がします。

内藤:これがもう1年後、7000万円の売り上げだったころは?

村上:その時は15名ぐらい。全部学生、臨時のメンバーとかもいましたね。

隣のオフィスに与沢翼、「彼はすごいガッツがあった」

内藤:僕は村上君と出会う前に、村上君の噂をほかの社長さんから聞いていた。みんな「村上先生」と呼んでいるらしいと。23歳くらいの時にすでに「先生」と呼ばれる早稲田の学生がいると。サービスに対して細かくSEOをやりまくって、改善しまくって伸ばしてるっていう話を聞いていた。

駄作になるプロダクトと、伸びるプロダクトは紙一重だと思うんですが、サービスがうまくいった分岐点だった部分はどんなところだと思いますか、今振り返って。はじめは何の経験もなかったわけじゃないですか。

村上:分岐点はないんですけど、ただ働き続けていました。当時はまだ有名にはなってない与沢(翼)先輩っていう人が隣のオフィスにいてですね。帰る時間、お互い電気が消えるタイミングがわかる。

内藤:痩せてイケメンの頃の。

村上:痩せてイケメンの頃で、当時はECサイトをやってました。彼はすごいガッツがあって働く方なので、深夜も「まだ与沢さんいるかな?」みたいに思っていた。彼はすごい働いていて、あれだけ驚異的なマーケティングをする力は、あれだけ働いていた時間があったからこそできたんだろうなと思います。

内藤:スタートアップでがむしゃら働くチームなら、成功しないことはないですよね。

村上:特に学生ベンチャーおいては、これはマストだと思っていて。当時は土曜日が一番仕事できるっていうので、みんな集まって土曜日朝から会議をして。

ネット業界、半年死ぬ気で取り組めば勝てる

内藤:僕らも机の下に布団を置いていて、基本的に会社に泊まっている前提でした。帰るときには「帰るの?」って言われるんです。家に帰らないのが前提になっていて、12時ぐらいに帰ると早退みたいな雰囲気。週に1回とか2回、みんなで銭湯行ったりしてた。がむしゃらに上場までやってましたね。

村上:当時(サイバーエージェント社長の)藤田さんが「渋谷で働く社長の告白」という本で、週110時間働くっていう基準を書かれてたんで、僕らは124時間やってましたね。

内藤:自分には何か特別なスキルがあったと思いますか。

村上:たいしてあったわけではないですね。基本的には、ネットにはあらゆる情報が網羅されていると思っています。それをひたすらどこまで突き詰めて見ていくかとか、実際手を動かしてやってみるかっていう話なんです。インターネット業界ってできてからまだそんなに年数経ってるわけじゃないので、半年間〜1年間死ぬ気でやったら、けっこうなレベルまでいくじゃないですか。そんなことをやりながら感じました。

内藤:おっしゃる通りで、経営もプロダクトも、基本的に本に書いてあることをそのままやったらうまくいく。でもできないからうまくいかないわけじゃないですか。特に自分がやる分にはいいけど、他のメンバーにそう強いるっていうことが、すごくハードル高くなりますよね。ギリギリまでこだわったり、やりぬくところは、チームとしてどうやって保っていたんですか?

村上:一緒にやるからには伝えるしかないです。伝える方法として、中途採用の社員とかになってくると人間関係が、コミュニケーションが、という議論はあるんですけど。学生で年も近くて、変な役割や地位とか関係ないような状況で、とにかくストレートに言えるのが基本だったんです。でもストレートに言えないメンバーとかも出てきたときに、やってみたのが「破壊の夜」というイベントですね。

メンバーの人間関係を改善させた「破壊の夜」とは?

内藤:何ですか、また宗教っぽい。

村上:「破壊の夜」は、ストレートに物事を言うためのものです。メンバーの一部が「Aさんが最近帰るの早い」とか、「学校だとか言ってあまり来ないんで、何すか役員なのに」とか愚痴を言ったりしていたんです。だから直接言えるように、ある日、部屋を真っ暗闇にして、オフィスというか教室だったんですけど、ろうそくを灯した。

俺らは若いし、スキルもたいしてあるわけじゃないから、お互いに悪いところとか、改善した方が良いところとかを言い合っていかないとダメだと。でもわざわざ言うのは心が痛い。嫌われるかもしれない。

ただもうみんな愛だよ、それは。成長にあたっての愛なんだ。だから1回言い合って、それを愛だと受け止めて、改善していこうぜと。みんなでストレートに言い合ったんです。「Aさん、学校ばっかり」だとか、「伝えた後に、聞いてないような雰囲気を漂わせるのが気に食わない」だとか、そういうのをみんなで言い合って、時には泣いたりもして、でも次の日また円滑になる。

内藤:それいくつの時にやったの?

村上:21、22歳とかですね。

ストレートにぶつかり合うのが「愛のハードラブ」

内藤:すごい。そのメソッドを21、22歳の時にやろうと思ったのはなぜなんですか?「破壊の夜」を思いついたのは何だったんですか?

村上:心理学の本とかも読んでいて、ろうそくが良いらしいぞと知った。暗いほうが人は話しやすいらしい。お互いストレートに言えば、コミュニケーションもストレートになると思っていました。だからストレートにぶつけ合おうと。ただ、愛だよねと。みんなわざわざ言いたくないじゃん。それを「助け合う愛のハードラブ」と呼ぶんですけど。きついかもしれないけど愛だよね、みたいな。そんなことを言ってましたね。

内藤:それを21歳の時にやろうと思ったとこは、普通と違うし、すごいよね。最初のチーム作りの時にそういうことができてないと、上辺だけでチームが進んでいっちゃって、一番よくないんです。

村上:ストレートに言うきっかけを意図的に作るっていうのは大事な気がしますね。チームがボロボロ見え始めると。

プロダクトありきか、起業ありきか

内藤:大事ですね。あと起業しようと思ってるのにしない人の中で、社会人からよく聞く言い訳で、「まだいいアイデアが見つかってないんです」っていうの。「良いプランが見つかったら起業しようと思うんです」っていう人、起業するする詐欺みたいなことがあるんですけど、最初のサービスは元からそれをやるために起業したのか、後から調べて「これだ!」ってなったのか、どうですか。

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村上:調べてて「これだ!」って思いました。会社をやりたいっていう思いはずっとあって、それにあたってビジネスモデルを考えなきゃと。ビジネスモデルの基本は何だろうとひたすら本を読んでると、不便や問題の解決がビジネスの基本だというんです。だから不便や問題を探すぞと、日常的にひたすらメモを続け、街とか歩いててもキョロキョロして挙動不審だと言われてたんですけど、街を見ながらずっと探していました。

内藤:その時にたくさん案を出して、どうしたんですか。

村上:案は恐ろしいほど出てきました。当時の携帯電話はパケットし放題じゃなかったので、節約するような人もいるような時代だった。なのでパケットし放題にどうにかできないかという「フリーパケット」っていう企画で、携帯電話の画面に広告を常に出して、その代わりにパケットし放題にしようみたいな企画を出して、ドコモに電話しました。案の定断られるんですけど。

内藤:その時にマーケットが大きい、これから伸びそうだ、競合が少なそう「ブルーオーシャン」である、自分たちでもできそうだとか、いろいろな物差しがあるじゃないですか。どんな物差しで最終的に案を絞ったんですか。

村上:そこはうまく交わり合うところです。ベンチャー企業が市場のないところでいくら頑張ってもどうにもならないじゃないですか。なので、もうしっかり市場があるところ、伸びがあるというところで、できそうだって思ったところの2点です。

村上社長がいま注目しているビジネス

内藤:最後のテーマとして、ここから起業したいとかの人たちに向けて、最近気になる分野、ビジネスとか分野のところをピックアップしていきたいと思うんですけど。

村上:最近風邪で寝込み続けて、寝れなかったりして、ひたすら事業のこととかを朦朧としながら考えてたんですけど、そこでメモ書いてました。

例えば、遊休資産の活用ってよくあるけど、働くことの遊休資産ってまだまだあると思うので、すごく優秀な女性で家庭入ってあとにまだ働けてない人を活かすのはいいと思う。シニアで「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)」というSNSがやってるんですけど、あれのスマホ化ってあるんじゃないかなとか。しゅみーとさんはけっこう長くやり続けていて、意外と良いコミュニティができてそうなんですよ。

後は、B to Bってまだまだあるように思います。B to Bの一番でかい商社とかって日本ならではです。もっと商社のIT化みたいなことが何かないかなあと。そういうことをいろいろ考えていましたね。ちょっときれいにまとめて、ブログに載せようと思ってるので、みなさん、ブログ購読してください。

基本的には大きな流れで言うと、ビジネスチャンスって何かが変化した時に生まれます。スマホの文脈があったり、世の中の人が今までなかったくらいインターネットに常に触れているからこそできることとか。「スマホって何だろう?」って考えた時に、そういったリアルタイム性とか、個々人が個人タイムで簡単にネットにアクセスできるとか、そういった文脈だからこそできることもありますけど、コンセプトはPC時代からあったりする。その辺にビジネスにチャンスはありそうだと思います。